海の底に広がる龍宮の世界は、日本の昔話や神話の中で、向こう側の世界として描かれてきました。
日常と非日常のあわいにあり、人の願いや想いをそっと受け止める場所のようです。
この『龍宮』の絵は、そんな古くから語り継がれてきた世界観を、灯り絵というコンセプトのもと、再構築した作品です。
画面の中心に描かれた龍は、浦島太郎物語の乙姫のモデルともいわれる「豊玉姫」が本来の姿としてとらえられてきた存在です。
真珠を抱えて海中を舞う姿は、ただ美しいだけでなく、海の世界が内包する生命力や静けさ、そして「何かを大切に守り続ける意志」を象徴しています。
青く澄んだ海と、柔らかな光に包まれたサンゴの景色が、龍宮の物語性を穏やかに浮かび上がらせます。
絵の背景には、『龍体文字フトマニ図』だけでなく、日本神話『山幸彦と海幸彦』の中で描かれる豊玉姫と山幸彦の物語をモチーフにした意匠を取り入れています。
釣針、鶴と亀、そして物語を象徴する文様。これらは、単に装飾として置いているわけでなく、人が大切にしたい記憶や願いを思い出す「手がかり」として構成されています。
物語を直接語りすぎることなく、観る方の想像力に委ねて静かに世界観を広げていく…。灯り絵ならではの表現にしました。
深い海の青や、サンゴの柔らかな色合い、そして真珠を抱えた龍の姿。
灯り絵『龍宮』には、日本の神話が育んできた「再生の物語」が静かに息づいています。
豊玉姫や浦島太郎の物語は、ただの昔話ではなく、「自分の大切な願いにもう一度出会うための道筋」を示すものとして語り継がれてきました。
灯り絵『龍宮』は、そうした物語性を背景に、忙しさに追われて見えづらくなったあなたの本心や希望を、そっと思い出させてくれる存在です。
海の底に差しこむ光のように、ふと視界に入った瞬間、心の奥で静かに波紋が広がるような感覚をもたらしてくれることを願って…。
この灯り絵が、日々の中で静かに心を整え、あなた自身の物語と向き合う時間をそっと照らしてくれることを願っています。