弁財天は、古くから芸事や知恵にまつわる象徴として親しまれ、龍は自然の力や変化の象徴として表現されてきました。
この作品では、水の流れを表した曲線と龍の造形、弁財天の静かな佇まいをひとつの画面に収め、日本の美意識に根ざした象徴表現として組み合わせています。
背景や装飾枠には『龍体文字フトマニ図』や弁財天にまつわるモチーフを、灯り絵として現代風にリデザインして配置。
すべての形が重なり合うことで、観る方の内側にある静かな光へ意識が向くよう構成しました。
日々の忙しさや周囲の期待に追われていると、自分が本来大切にしたいものを見失うことがあります。
この作品に描かれた弁財天と龍は、「揺るぎないもの」と「しなやかに変わるもの」の両方を象徴的に表し、画面としてそのバランスを提示しています。
強さと柔らかさ、静けさと情熱。
一見相反する要素が共存する姿を眺めていると、自分の内側にも複数の感情が息づいていることに気づかされます。
その気づきが芽生えたとき、この絵が放つ光は単なる装飾ではなく、心を整えるきっかけへと変わるのだと思います。
絵を観るたびに、気持ちの流れが少し変わる。
『弁財天と龍』は、そうした日常の中の静かな変化を想定して制作しています。
アートとしての美しさはもちろん、その場の空気を落ち着かせたり、思考のリズムを整えたりする存在としても、暮らしに寄り添う一枚。
忘れかけていた「あなた本来の物語」に、静かに立ち返る時間。
慌ただしい毎日の中に、自分と向き合う小さな余白を生むこと。
この作品が、そのきっかけとなれば嬉しいです。