ひとつの願いを胸に歩き出すと、目の前に立ちはだかる壁や、心の中に渦巻く不安に足が止まってしまうことがあります。
そんなとき、心の奥底で、誰かがそっと背中を押してくれるような感覚に包まれることはありませんか?
今回は、灯り絵アーティストでライブ絵本作家・祐彩(ゆうせい)の視点から、力強くもあたたかい存在、倶利伽羅龍王(不動明王)について、物語を読むようにお話ししてみたいと思います。
まるで火を背負うような激しさと、剣を振るうような鋭さを持った姿。彼は「不動明王」という、仏教の中でもとても力強い存在と言われています。
その表情は怖く見えるかもしれません。でも、それは「怒っている」のではなく、「必死で守ろうとしている」から。
例えば、迷子になった子を探す親の顔には、焦りと必死さがにじみます。
倶利伽羅龍王も、困難の中で迷っている僕たちを、力強く引き上げようとする存在なのです。
不動明王の手には、鋭い剣があります。それは、心の中に潜む迷いや恐れを断ち切るためのもの。
もう一方の手には縄のような道具(羂索)を持ち、どんなに離れたところにいる人でも、引き寄せて救おうとします。
そして背中には燃え盛る火焔。あらゆる障害や負の感情を焼き尽くして、新しい一歩を照らす灯りでもあるのです。
僕は絵本作家として、この姿に「迷いの森に現れた炎の龍」のような物語を感じます。
暗い夜道を一人歩く主人公に、どこからともなく現れ、そっと前を照らしてくれる。その存在がどれほど心強いか、想像に難くありません。
この不動明王の在り方を、願い絵『倶利伽羅龍王』で、龍体文字のフトマニ図を蓮で包み込む装飾デザインで表現しました。
僕が描く願い絵『倶利伽羅龍王(不動明王)』は、金色の龍です。
物語の中では不動明王は黒い龍になります。倶利伽羅という言葉には「黒色」の意味もありますし。
実際に、深川不動堂尊で僕が不動明王の上に見た龍も黒龍でした。
でも、僕の絵では物語の中で「その人の願いを包み込む光」としての意味を込めて、あえて金色にしました。
この絵には、龍の四足にあたる場所に四大明王を象徴するモチーフを描き込んでいます。
そして中心には不動明王としての倶利伽羅龍王。
その構成は、まるで五つの守護者が、観る人の光を見守るような構図になっています。
それぞれの明王には、それぞれ異なる力が宿ります。怒りや困難に立ち向かう力、人の心を浄化する力、大切な人を守る力。
まるで、ひとつの物語の中に登場する個性豊かな登場人物たちが、主人公(=あなた)を応援するように。
不動明王(倶利伽羅龍王)は、怒っているように見えるかもしれません。
でもその奥にあるのは、「守りたい」「救いたい」という純粋な想い。
この世界は、願いだけでは進めない場面があります。けれど、誰かがそっと背中を押してくれたなら・・・そこからまた、物語は動き出すことができます。
もし今、あなたの中に「叶えたいこと」「乗り越えたい壁」があるなら、倶利伽羅龍王という存在に、そっと心の中で語りかけてみてください。
その瞬間から、あなたの物語に、ひとつの守護者が加わっているのかもしれません。