誰の心にも、一度は「どうしても叶えたい願い」が宿ることがあります。
けれど、その願いを誰に話せばいいのか、自分の中でどう育てていけばいいのか、わからなくなる時もあるでしょう。
そんなとき、ふと思い出すのは、小さな頃に読んだ絵本の中の「神さま」や「女神さま」の存在です。
今回ご紹介する弁財天(べんざいてん)も、そのひとり。
これは、願いと向き合うあなたの背中をそっと押してくれる、ある女神の物語です。
そんな弁財天の魅力について、灯り絵アーティストでライブ絵本作家・祐彩(ゆうせい)の視点で、お伝えさせていただきます。
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弁財天のルーツは、はるか遠くインドにありました。
もともとは「サラスヴァティ」という、川や音楽、学びをつかさどる女神。
その姿は、琵琶を奏でるように優雅で、孔雀を連れていることもありました。孔雀が蛇を食べることから、「流れを清める力を持つ存在」ともいわれていました。
やがてこの女神の物語は仏教とともに東の国・日本へと渡り、「弁財天」という新たな名前とともに、日本独自の信仰と融合していきます。
日本にやってきた弁財天は、不思議な変化をとげていきます。
ときには8本の腕で武器を持ち、仏法を守る戦う女神「八臂弁財天」として描かれ、ときには琵琶を抱えた穏やかな「妙音弁財天」として、音楽の才能を授ける存在になります。
そしてもう一つの姿、「八臂宇賀弁財天」は、仙人の顔と蛇の体を持つ神・宇賀神と一体となった姿。これは「財」や「長寿」という現実的な願いにも寄り添ってきた証でもあります。
絵本で登場人物の服装や表情がその物語に合わせて変わるように、弁財天もまた、時代や人々の願いに合わせて、最適な姿で現れてきたのです。
弁財天は、龍神とも深い関わりがあります。
水を司る龍は、古くから「流れ」や「運」を象徴する存在として語られてきました。流れが滞るとき、龍が現れて流れを正してくれる。そんな言い伝えも残されています。
弁財天と龍とのつながりは、まるで絵本のなかの強くて優しい登場人物が、いつもそばで見守ってくれているような感覚を思い出させてくれます。
僕たちの暮らすこの日本には、弁財天を祀る場所がはたくさんあります。
特に有名なのが、「日本三弁天」と呼ばれる3つの地。
滋賀の竹生島、神奈川の江ノ島、そして広島の厳島神社。
どれも水辺にあり、流れる水の音とともに女神の物語が今も語り継がれています。
島という「ひとりになれる場所」に足を運び、静かに耳を澄ませると、自分の中に流れる「本当の願い」や「忘れかけていた光」に気づくこともあるかもしれません。
弁財天が授けてくれるものは、音楽や学びの才能だけではありません。
自分らしさを思い出させてくれる言葉や、未来に一歩踏み出すための勇気も、彼女の「物語」の中には込められています。
人生における大きな節目や転機のとき、自分の「星」が変わる瞬間をそっと照らしてくれる。
そんな灯りのような存在が、弁財天なのかもしれません。
弁財天は、ただの神様ではありません。
それは、過去から未来へと流れる「願い」の物語に、そっと寄り添ってくれる存在。
どんな姿であっても、彼女の本質は変わりません。
「あなたの中にある力を信じて進みなさい」と、静かに語りかけてくれているようです。
もし、あなたの中に小さな願いが芽生えているのなら・・・その願いに名前をつけて、物語の最初のページをめくってみませんか。